「住宅ローンが払えなくなった場合、すぐに退去しなければならない」という誤解があります。住宅ローンの返済など人生の内で何回も経験することがないことですから、さまざまな誤解や勘違いにて自分の首を自分で締める結果になるケースがままあります。
今回は、住宅ローンが払えなくなった人が陥る誤解について紹介をします。もし、このような誤解をしているのであれば、改善することで最悪なシナリオを回避することができるでしょう。
目次
住宅ローンが払えないときの勘違い
住宅ローンが払えないときに、専門の不動産業者が受ける相談の中から、よくある勘違いを洗い出してみました。
勘違いをして、目先の住宅ローン返済に頭を悩ませ、消費者金融業者から住宅ローン返済にあてるお金を借りるという本末転倒なことをしてはいけません。その月は乗り切れたとしても多重債務に陥ってしまい、根本的な解決手段とはなりません。
1.住宅ローン返済が遅れたらすぐに退去しなければならない
住宅ローン返済ができなくなったら、すぐに自宅から退去しなければならないと勘違いしている方が多くいます。
ただし、3ヶ月~半年間、住宅ローンを滞納していると債務者に認められた権利である「期限の利益」を喪失してしまいます。期限の利益とは、分割返済を認めたものであり、期限の利益を喪失してしまったら、住宅ローンを一括返済しなければならなくなります。
たとえば、2000万円の住宅ローン残高が残っており、毎月8万円返済をしなければならない場合、3ヶ月以内の滞納であれば8万×3=24万円で金融機関は穏便に済ませてくれますが、期限の利益を喪失してしまったら、2000万円を一括返済しなければならなくなります。
それができない場合、ローン保証会社が代位弁済を金融機関へおこないます。つまり、ローン保証会社が代わりに返済をしてくれるわけです。しかし、債権がローン保証会社へ移るだけなので、ローン保証会社から2000万円の一括返済を求められます。返済できない場合、ローン保証会社は競売の申立てを裁判所へおこなうのです。
競売が開始されても、住宅の調査など半年程度の時間をかけて行い、その間退去する必要はありません。競売で買受人が決まったのち、立ち退きとなります。
金融機関ごとに異なりますので注意をしてください。自動車ローンのように1ヶ月~2ヶ月間滞納したくらいでは住宅は競売にかけられませんし、かけられても半年程度は住み続けることが可能なのです。
2.返済が遅れてもボーナスで支払えば大丈夫
ボーナスで滞納分を一括返済すれば問題ないだろうと考えるわけですが、これは非常に危険な勘違いです。
毎月の返済で困っているのに、一括返済ができるわけはありません。ほとんどの金融機関が半年以内に期限の利益を喪失させます。早ければ3ヶ月です。
3.金融機関に相談をしてはいけない
住宅ローンの誤解として「繰り上げ返済は認めるけれど、リスケジュールは絶対に認めない」というものがあります。
住宅ローンが支払不能となった人は金融機関から連絡や督促がくるまで、金融機関に連絡をして相談に乗ってもらい解決しようとはしません。これは、前述したように金融機関に相談をしても解決策を示してはくれないという誤解から来ています。
リスケジュール(リスケ)とは、簡単にいえば返済期間の延長です。金融機関ごとに期間が異なりますが、35年を超えない範囲であれば、リスケに応じてくれる可能性があります。しかし、デメリットもあり優遇金利などが付いている場合、確実に廃止されます。また、リスケをすることは返済期間の延長になりますから、総返済額は多くなります。
さらに、リスケを受けたのちに借り換えなどを検討した場合、リスケを受けた要注意の顧客として扱われます。そのため、住宅ローンの借り換えの審査には通らなくなる可能性があるので、リスケするべきか、借り換えをするべきか、どちらが得になるのかを考えるべきであるといえます。
また、元本据置ですが、これは半年~1年間、利息とわずかな元本の返済をする、もしくは利息のみを返済する方法です。一時的に支払いが困難になった場合には非常に有効な手段ではあります。ただし、元本据置期間が終了したら、据え置かれていた分も返済をしなければならず、月々の返済額は多くなります。
元本据置もリスケ同様、行ってしまうと借り換えをするのが難しくなるので注意が必要です。
住宅ローンを滞納してしまってはとることのできる対策というのが少なくなってしまいます。これは、滞納をしたということで個人の信用が落ちているからです。つまり、住宅ローンの返済が難しくなってきた場合、すぐに金融機関へ相談をすることが一番正しい解決策です。
4.住宅ローンの支払いに1回でも遅れるとブラックリストに載る
まず、ブラックリストというリストはこの世に存在しません。しかし、「信用情報機関」という機関へ金融機関は、誰が、どこで、どのくらいお金を借り、どのように返済をしたかという個人信用情報というものを送付しています。
- CIC
- JICC
- KSC
この3社があり、全ての会社はCRINという情報ネットワークで個人信用情報を共有化しています。
ただ、住宅ローンを1回滞納した程度では自己情報とはなりません。
5.金融機関が勝手に家を売却してしまう
よくある誤解として、住宅ローンの返済ができなくなると金融機関が勝手に家を売り出してしまうというものです。支払いができない場合、真っ先に頭に思い浮かぶことであるとはおもいますが、住宅ローンを滞納した場合、4つの段階を踏んで手続きが進行します。
- 返済の督促
- 一括返済予告
- 一括返済要求
- 競売の申立て
返済の督促
まず、第一段階として「今月分の返済がまだ……」や「至急支払ってください」というレベルのご連絡です。もっとも軽い状態です。
銀行の担当者から電話や手紙などが送られてきます。
住宅ローンを滞納初月から数か月間は、返済の督促をしてきます。
一括返済予告
つまり、期限の利益の喪失予告です。このまま返済せずに滞納をしている場合、残っている残債全額を一括で返済してもらわなければなりません、という予告になります。
ここまで滞納している人が、住宅ローンの借り換えをするとは考えにくいですが、以降5年間は借り換えなどが不可能になります。
一括返済要求
期限の利益を喪失した状態です。分割で返済する債務者の権利を喪失していますので、一括での返済が求められます。
この段階になってから金融機関と交渉をしようとしても、金融機関は交渉のテーブルにはつきません。ただし、ローン保証会社が代位弁済をするまでの間に、債務整理の一つである個人再生の住宅資金特別条項を利用することで、期限の利益を復活させることができ、金融機関を交渉のテーブルにつかせ、リスケジュールや元本据置返済などの交渉をすることが可能です。
しかし、個人再生を利用した場合、ブラックリストに5年~10年間は名前が載ります。
競売の申立て
一括返済をすることができないのであれば、競売の申立てをされてもしかたないよね、という理屈で、競売の申立てを裁判所へおこないます。
競売の申立て自体は、一括返済要求をする前でも可能なのですが、その場合、債務者には一括返済の義務がない状態での申立てになります。そうしますと、金融機関には、分割払い分の金額しか競売では配当を受けることができません。
たとえば、毎月8万円の返済額であれば、8万円が全額となります。それでは競売をする意味がないので、競売をする前に、全額返済の義務を発生させる必要があるわけです。
このように、金融機関はさんざん、返済をしてくれと頼んだうえ、最後の手段として競売の申立てをおこないます。金融機関は勝手に家を売却することはできますが、それまでに段階を踏んで手続きをおこなう必要があります。
住宅ローンの返済ができなくなった場合
住宅ローンの返済ができなくなった場合、パニックを起こしてしまうのは当たり前です。せっかく手に入れた夢のマイホームを失い、なおかつ、莫大な借金を抱えてしまう可能性があるのですから冷静にふるまうというのは難しいでしょう。
しかも、住宅ローンの返済に困るという経験は、人生の中でそう何度も訪れるものではありません。経験がない場合、パニックを起こして視野狭窄となり、自殺すれば団体信用生命保険の保障で……なんて考えてしまいますが、まずは落ち着いて状況の整理をしましょう。
難しく考えるから問題がややこしくなるのであり、難解な問題ほど、単純化して考えればあっさりと回答が出るものです。
- 一時的に困難
- 恒久的に困難
この二択の中から選べば、いいのです。
一時的に支払いが困難な場合、住宅ローンの融資をしてくれている金融機関へ行き相談をしましょう。
そして、恒久的に支払いが困難なのであれば、金融機関に相談をしても焼け石に水なので、別の手段を講じる必要が出てきます。別の手段を講じるにしても、金融機関などの債権者との関係を良好にしておくことで、面倒ごとが少なくなります。
どちらにせよ、まずは住宅ローンの融資をしてくれている金融機関へ相談しに行くのがいいのです。
正しい対応である「金融機関への相談」をせずに目先の問題、つまり、今月の住宅ローンの支払いをどうにかすることだけを考えていると、住宅ローン破たんにつながります。
また、開き直って住宅ローンを返済することなく、放置して見ざる聞かざる言わざるの対応をしていれば、銀行から法的な手段の実行をするとの連絡がきます。そして、そう遠くない未来、裁判所の介入のもと合法的に自宅を追い出されてしまうでしょう。
競売についてはおすすめできる住宅の売却方法ではありません。デメリットが非常に多いのです。そのため、住宅を売却しなければならないというのであれば、任意売却という手段をとれば、市場価格に比較的近い価格で住宅を売却することができます。
しかし、住宅ローン返済中の住宅の売却経験というのも人生の中で、そう何度もあるものではありませんから、特有の誤解が出てきます。つまり、
このように、住宅ローン返済において大きな誤解や勘違い、知らないと損をする情報というのが数多く存在します。
バブル崩壊以前のような終身雇用制度は壊れ、仕事をしていれば必ず収入がアップするという時代ではなくなりました。そのため、住宅ローンを組むのであれば破たんすることも視野に入れて情報収集をしなければなりません。
まとめ
- 住宅ローン返済が遅れたらすぐに退去しなければならない
- 返済が遅れてもボーナスで支払えば大丈夫
- 金融機関に相談をしてはいけない
- 住宅ローンの支払いに1回でも遅れるとブラックリストに載る
- 金融機関が勝手に家を売却してしまう
これらがあります。
特に金融機関との連携がうまくいかなければ発生する問題が多く、住宅ローンの返済が困難になり、近いうちに滞納するとなった場合、必ず金融機関へ相談をしましょう。
それでも、住宅ローンの返済が困難であるのならば、任意売却という手段があります。