任意売却後の残債の5つの整理方法とは?行うべきではない整理方法について

任意売却後に気になるのが、残ってしまう借金です。よくある誤解として、任意売却をすれば借金が0円になるということです。任意売却をしても残債の支払は免除されません。住宅の売却価格よりも住宅ローンの残債務の方が多ければ、当然ですが債務は残ります。これが残債です。

稀に交渉によって残債が免除になるという風聞を耳にしますが、実際問題、債権者が何の見返りもなく残債を免除してくれることはありません。

今回は残債を整理する方法を紹介していきます。

任意売却をしても残債は免除されない

一般的に、任意売却をしても住宅ローンを完済することは難しいとされています。なぜなら、住宅の売却価格よりも住宅ローンの残債務の方が多いからです。そのため残債が残ります。

任意売却後の残債ですが、すでに住宅の抵当権も外れています、というかすでに売却されて他人の所有物になっていますので、無担保債権になります。この残債は銀行や保証会社から債権回収業者に売却されます。

そして、一般的には、このような債権は不良債権としてサービサー(債権回収会社)と呼ばれる債権回収業者に売却されます。住宅金融支援機構のなどは例外ですが、民間の金融機関は、サービサーに売却します。

そして、任意売却後の残債務はサービサーのような債権回収業者への支払義務が残ります。

ネットなどでは交渉次第では住宅ローン売却後の債務は免除されるなどとありますが、全額免除されることはまずありませんので、誤解しないようにしてください。

債権者は仕事ですから1円でも多く債務を回収しなければなりません。しかし、無担保債権のような不良債権は通常、元の債権よりも安い金額でサービサーが買い取りますので、交渉により「減額」や「低負担」での分割返済に応じてもらえるケースがあります。

サービサーとは?

債権回収会社のことです。厳密には、法務省に認可を受けた金融債権の回収を代行することのできる業者になります。債権の回収に暴力団などが介入することを防ぐために、弁護士法の特例として認可制でのみ、債権代行を許可された民間業者です。

サービサーとの交渉により残債が減額される可能性もある

サービサーは保証会社から、債権額元本よりもはるかに安い価格で債権を買い取っています。そのため、残債を全額返済してもらわなくても利益がでる計算となります。

また、そもそも回収の確率の低い無担保の不良債権ですから、返済額について過度な期待をしてはいません。

そのため、弁護士などを通じて交渉をすることで債務よりも安い金額にて、債権よりも安い金額で債権を一括払いで買い戻すという方法もあります。また、あまり生活に負担をかけない低額な金額で分割返済に応じてくれる可能性が高くなります。

しかし、サービサーも建前上は債権の全額回収を目標にしていますので、まったく返済をしていない時点でサービサーに、「数パーセンの価格で買い戻したい」、「値引きをしてほしい」といっても相手にされない可能性が高くなります。

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弁護士をはじめとした専門家に相談をして対応を考えるのがベストであると考えます。

住宅ローンの基本的な仕組み

借りた住宅ローンの窓口は、ほとんどの場合、銀行であると思います。その銀行は主に系列の保証会社とローン破たんの場合の保証を契約しています。そのため、約2.0%前後の「保証料」が住宅ローンの中に組み込まれています。

何事もなければ、銀行はローンの利息を、保証会社は保証料を利益としています。しかし、ローンが破たんすると、銀行の債権は保証会社、そして、サービサーへと移っていきます。

住宅ローン破たんをすると、銀行は保証会社から残債の支払を受けることができます。そのため、損失はゼロ円です。そして、保証会社は、それまでの保証料と、サービサーへ売却して採算をとるか、仮に損失が出た場合は保険等で穴埋めをして損失を出さない仕組みとなっています。

そして、サービサーは、額面上では高額な残債、たとえば3000万円などの支払を、債務者に求めます。しかし、これらの残債は約30万円~300万円程度で買い取っているのが実情です。そのため、たとえば、30万円で買い取った債権ならば、その後、毎月3万円の返済をしてもらうだけで11ヶ月後には利益が出る計算です。

このように住宅ローンは、債務者以外は損をしない仕組みができているのです。そのため、ローンを払えなくなり、銀行などに迷惑をかけてしまったと悩む必要性はありません。

債権を持つ会社にとって、住宅ローンはビジネスです。ギャンブルではありません。債権者側がビジネスなのですから、債務者も同様にビジネス的な割り切った考え方でいいでしょう。

残債を整理する方法

残債を整理する方法ですが、ここからは弁護士の領分になります。任意売却の専門業者の場合、弁護士と提携しているケースが多く、残債の整理についても任せることができます。

任意売却の後が弁護士の領分であり、任意売却の前は任意売却の専門業者、つまり、不動産業者の領分になります。

収入があり意地でも住宅を任意売却したくない場合には、弁護士が活躍します。なぜなら、「任意整理」「民事再生(個人再生)」といった債務整理も弁護士の領分だからです。

話を戻します。

残債の整理方法ですが、下記の5つの方法があります。

  1. 自己破産
  2. 任意整理
  3. 民事再生(個人再生)
  4. サービサーを利用した債務整理
  5. 時効を利用しての債務整理

この中で、避けるべき方法としては「時効を利用しての債務整理」です。それ以外の方法はそれなりの効果があります。

1.自己破産

自己破産は裁判所に申立てることでおこなうことのできる債務整理の方法です。

住宅という不動産、つまり財産はすでに任意売却にて処分されています。そのため、裁判所へ納める予納金が少なく、破産者としての期間が短い自己破産の手続きである「同時廃止事件」を利用することができます。

同時廃止事件の場合、裁判所へ納める予納金を含めて約3万円前後で実行が可能です。確実に自己破産をしたい場合は弁護士に依頼をして進めることがいいでしょう。しかし、同時廃止事件の場合なら個人で自己破産の手続きを進めることもできます。

同時廃止事件ならば、すべての手続きが終了するまでに約3ヶ月~6ヶ月程度必要になります。

自己破産は債務整理の中でもっとも効果が強く、非免責債権、つまり税金などを除きすべての借金が帳消しになります。もちろん、住宅ローンの残債も0円になります。

ただし、自己破産を利用する場合、20万円以上の財産があると「管財事件」もしくは「少額管財事件」となります。

この場合、20万円以上の財産は換価処分の対象となるのです。たとえば、20万円以上の価値のある自動車、解約返戻金が20万円以上ある保険、20万円以上の預貯金はすべて没収されてしまいます。また、99万円以上の現金がある場合も管財事件、少額管財事件になり99万円以上を超える現金は没収されてしまいます。

管財事件になった場合、裁判所へ納める予納金の額は50万円からとなり、少額管財事件は利用できる地方裁判所が限られている上、弁護士に依頼をして受任してもらうことが利用の条件です。利用ができるのであれば最低20万円からの予納金で利用が可能です。

不動産のような処分に時間がかかる財産がない場合、4ヶ月~6ヶ月程度で終了します。

自己破産をする場合、注意しなければならないのが、自己破産の手続き中は破産者になるということです。破産者はさまざまな制限をくわえられます。たとえば、警備員や証券会社や保険会社の外交員を務めることはできませんし、弁護士や司法書士などの場合はその資格を行使することができなくなるのです。

2.任意整理

任意整理は、債権者と交渉をすることで将来利息をカットすることができます。そして、借金の返済期間を3年間リスケジューリングをして、分割払いをしていきます。

借金の総額が100万円~200万円程度の場合、任意整理をしてしまった方がいいでしょう。

裁判所を利用しない私的な和解交渉であり、官報などに名前が載りません。任意整理のひとつの方法として任意売却は存在しています。

原則として、債権者と話し合うのは弁護士です。司法書士も任意整理の交渉をすることができるのですが借金の総額が140万円以上の場合、司法書士はその案件の交渉をすることができません。任意売却の場合140万円以上の残債が予想されますので司法書士では取り扱うことはできないでしょう。

この方法を利用しても、借金の元本を減額することはできず、あくまでも利息のカットがメインとなります。利息がカットされますので返済をすればするほど、残債は減額されます。

ただ、残債の場合、基本的に利息、遅延損害金については請求されない可能性が高くなりますので、基本的にはリスケジューリングをすることがメインでしょう。

3.民事再生(個人再生)

民事再生(個人再生)は裁判所に申立てることでできる債務整理の方法です。借金を最大で90%カットすることができます。

自己破産より効果が弱く、任意整理よりも効果が強い債務整理の方法であるといえるでしょう。

自己破産のように借金が全額免除になるわけではなく、3年、最長で5年間をかけて残債を返済していきます。

裁判所に収める費用は60万円前後です。こちらも弁護士を雇うことで個人再生委員という弁護士を選任される可能性が低くなり、結果として裁判所に収める予納金の額を減額させることができます。

司法書士に依頼することもできますが、司法書士は代理権を行使することができない案件になります。また、個人再生委員が選任される可能性が弁護士に依頼をするより高くなり、金額面でのメリットがなくなります。

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基本的に弁護士に依頼をしてしまった方がいいでしょう。
民事再生(個人再生)については、任意売却をする前にも利用することができます。住宅ローンの支払いが困難になったけれど、住宅を売却したくないという場合、民事再生(個人再生)の住宅ローン特別条項を利用することで、住宅ローンを債務整理の対象から外して、その他の借金を最大90%カットが可能です。

自己破産のように、手続き中は破産者になるようなデメリットもありません。

個人で手続きをするにはあまりにも手続きが煩雑すぎますので、民事再生(個人再生)は弁護士のような専門家へ依頼して進めるといいでしょう。

弁護士費用は、自己破産と任意整理よりも高額ですが、分割払いを認めている法律事務所が多くなりますので、弁護士費用はそこまで問題とはならないでしょう。

4.サービサーを利用した債務整理

サービサーは前述した、債権回収業者です。弁護士を間に挟み交渉をすることで残債を減額してくれます。残債については約95%までカットすることが可能です。

サービサーは、信用保証会社から売却された無担保の不良債権、通称「くず債権」「ポンカス債権」などと呼ばれる債権を非常に安く購入します。たとえば、1000万円のいわゆるくず債権の場合、10万円~100万円でサービサーに売却されます。

そのため、毎月支払うことのできる額がごくわずかな場合、本当は1000万円の借金がありますが、150万円を一括で返済してくれるのであれば、完済にしますなどといってきます。

他にも1000万円の残債がありますが、一括で150万円を返済してくれたらとなった場合、頭金の100万円を支払、50万円を3年間、毎月14,000円の支払で完済するという解決方法もあります。

どちらにせよ、交渉は代理権を持つ弁護士がおこなうか債務者自身がおこなわなければなりません。

債権者との取引という感覚で挑んだ方がいいでしょう。

ただし、どんなに粘っても交渉によって残債を支払わずに0円にすることはできません。

また、サービサーに債権を売却しない住宅金融支援機構などの場合では、利用することのできない方法であるということを忘れてはいけません。

住宅金融支援機構の場合は支払える範囲内で、毎月返済をするという方法が一般的です。

5.時効を利用しての債務整理

これは、残債を放置して残債の消滅時効を狙うものです。時効は5年~10年の期間、1円も返済することなく、のらりくらり逃げ回ることで、権利が消滅するのです。

民法では、権利の上に眠るものを保護しないとされています。残債があるからといって、なにもしない場合は、その権利は消滅するのです。

ただ、債権回収のプロが時効になることを知らず、そのまま債権を放置するかと疑問に思うかもしれませんが、法務省の平成23年6月発表のデータでは、サービサーの累計取り扱い債権数は1億381万円であり、累計取り扱い債権額は、320兆円となっています。つまり、1件当たりの債権額は約300万円です。

債権回収担当者1人が担当する債権額は、相当の件数を担当していることが予想できるわけです。

債権回収担当者のノルマはあると考えられます。また、なかったとしても成績やボーナスなどに影響を及ぼす可能性は十分にあります。担当者としては効率よく回収するためには優良債権、つまり高額で債権回収しやすいものを優先的に回収することに力をいれます。手間がかかり、時間がかかる債権は後回しになります。

時効が成立したのかを調べるためには、素人判断は避けて、弁護士などの専門家を利用して確認をすることがいいでしょう。

時効の期間が過ぎても、時効により利益を受ける意思表示である「時効の援用(民法145条)」が必要になります。

時効の援用をしなければ、債権は消滅しません。

時効の援用については、債務者のみならず、債務者を保証した保証人・連帯保証人も時効により、直接利益を受けるものとして時効の援用が可能です。

時効の援用をしない限り、債権者の支払催告はやみません。

時効の援用ですが、時効をしている旨を、郵便局より内容証明郵便で相手債権者に郵送するだけです。

しかし、時効の援用を利用してしまった場合、信用情報機関の個人信用情報に事故記録として一生残ります。そのため、銀行ローンを新規で利用したり、キャッシングやクレジットカードを新規で取得したいと考えた場合、それが一生不可能になります。
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借金を踏み倒した前科があるのですから、貸金業者がお金を貸さないのは仕方のないことでしょう。

また、訴訟を提起されてしまった場合、時効を利用することはできなくなります。

まとめ

任意売却をしても、債務が残ってしまうケースがあります。この債権は返済をしなければなりません。

残債の整理については、弁護士の領分となりますので、弁護士と相談をしながら実践をすることをおすすめします。

残債の整理方法として、

  • 自己破産
  • 任意整理
  • 民事再生(個人再生)
  • サービサーを利用した債務整理
  • 時効を利用しての債務整理

これらがあります。

このなかで、サービサーを利用した債務整理がリスクなく行える、現実的な方法でしょう。

そして、もっとも利用すべきではないのが、時効の利用です。

効果よりもリスクの方が大きくなります。

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