住宅ローンの返済ができない。さらに、住宅ローン以外の借金もあり生活が困窮している場合、弁護士へ相談をすると自己破産を勧められます。しかし、住宅ローンが借金の大部分を占めているのであれば、自己破産をする前に任意売却をして住宅ローンを圧縮すれば自己破産を回避することができます。
それでも自己破産をしなければならない場合もありますが、自己破産をするにしても、任意売却で住宅という「不動産」を早々に処分した方が自己破産の手続きはスムーズに進み、経済的な更生も早くなるでしょう。
今回は、任意売却と自己破産の関係について解説をしていきます。
目次
任意売却と自己破産とは?
債務整理としての任意売却
任意売却は、債務整理(借金整理)の一環としておこなわれる行為です。
ただ、住宅の物件価値の下落スピードは元本の減りよりも早く、中古住宅になるだけで、新築だとしても3割ほど売却価格が減少してしまいます。これらのことから、住宅を売却しても住宅ローンを全額返済することは不可能なケースが多くなります。
そのため、通常の住宅売却とは異なる任意売却という方法をとらなければなりません。
任意売却をするためには住宅ローンを融資している金融機関(債権者)から、任意売却するための許可を得る必要があります。
債務整理としての自己破産
自己破産は債務者の持つ一定額以上の財産を処分換金する代わりに、債務者の借金を全額免除する債務整理の最後の手段です。国税などの支払義務のある債権は免除にはなりませんので注意をしましょう。
そして、一定額以上の財産には当然、住宅が含まれます。住宅を持っている場合、住宅は競売にかけられて処分換金され、売却金額は債権者へ公平に配当されます。
任意売却をするよりも自己破産をする方がメリットはあるのか?
多重債務の場合は、任意売却よりも自己破産の方がいいでしょう。弁護士もそのように説明をします。
特に、住宅ローン以外にも膨大な借金を抱えている場合、任意売却をしても住宅ローンの残債務が残りますので焼石に水といった状態になるので、自己破産が最善の道となります。
しかし、借金が住宅ローンだけなのであれば、わざわざ、その他の財産を処分してまで自己破産をする必要はありません。ただし弁護士へ相談をすると高い確率で任意売却ではなく自己破産や競売をすすめられます。
これは、任意売却より自己破産や競売が優れているからではありません。
理由は不動産売買行為が弁護士の専門外であることと、任意売却をおこなうように手配をしても弁護士の報酬には反映されない上、競売で住宅を売却するよりも手間がかかるからです。
そのため、弁護士が得意とする自己破産、もしくは勝手に進む競売などの方法を勧めてくるのです。
住宅ローンの返済が厳しいので自己破産を考えるのは早計であり、弁護士以外にも任意売却の専門業者へ相談をすることを、ここではおすすめをします。
自己破産はイメージ的によくない手段
また、自己破産は多重債務者の救済方法の1つではあるものの、あまりいいイメージがないというのが現状です。
自己破産=人生の終了と考えている方が多く、自己破産を避けたいと考える傾向があります。破産法では経済的な更生というのが自己破産の目的の1つなので、自己破産=人生の終了というのは間違いです。
なぜなら、任意売却をすることで、住宅ローンが原因の借金問題は解決する可能性が高いと考えられるからです。
自己破産をすると連帯保証人に多大な迷惑がかかる
自己破産をしたがらない理由の1つとして、連帯保証人への多大な影響があります。
連帯保証人への迷惑というのは、自己破産をした債務者本人は借金の免除を受けることができますが、連帯保証人を付けている場合、免除された借金は連帯保証人が返済の義務を負います。
さらに連帯保証人には借金の一括返済の請求がされますので、連帯保証人も自己破産をするケースが多くなります。
任意売却で自己破産は回避できる?
そもそもの話ですが、住宅ローン以外に大きな借金がないのであれば、自己破産を選択する必要はありません。
そして、任意売却をした後に残っている残債務についてですが、これは債権者(ローン保証会社・サービサー(債権回収会社))と交渉をすることにより、毎月返済が可能な範囲内の金額で返済をすればいいのです。
自己破産をするなら任意売却は必要ないのでは?
自己破産をすると住宅などを含む一定額以上の価値のあるものは処分され、借金が免除になります。
自己破産をする場合、裁判所へ申立てをおこない実行されます。その過程で破産管財人という弁護士が選任され、自己破産を申し出た債務者の財産を破産財団として管理し、換金処分をおこないます。もちろん、住宅も破産財団に組み込まれて換金処分をされることになります。
自己破産をする前に任意売却をするとスムーズに自己破産ができる
自己破産をする場合、破産開始手続というものがあります。しかし、処分する財産が無い場合は「破産開始手続の同時廃止(同時廃止事件)」となり、破産開始手続をすることなく、免責許可の申立に移ることができるのです。
免責許可の申立をおこない、免責許可決定を受けなければ借金は免除になりません。
住宅などの財産を持ったまま自己破産をしてしまうと、「管財事件」と呼ばれるものとなり、破産管財人が選任され、財産を換金処分してから免責許可の申立をすることになります。
破産手続開始決定から免責許可決定が下りるまでの間、申立てをおこなった人は「破産者」となり、警備員など就く事のできない仕事があるうえ、長期旅行をする場合は裁判所の許可を得なければなりません。
そして、制約を受ける期間と受ける制約の数が多いのは、同時廃止事件より管財事件の場合、つまり、住宅を持ったまま自己破産をすると、住宅を持っていない状態で自己破産をするよりも受ける不利益の数や期間が多くなるわけです。
自己破産をする前に任意売却をすると安く自己破産ができる
自己破産をする場合、裁判所へ予納金というお金を納めなければなりません。
東京地裁では、住宅などの財産を持っていない同時廃止事件の場合、予納金は1万円~15,000円程度です。
その他の地方裁判所でも同時廃止事件ならば、1万円~2万円程度の予納金で自己破産をすることが可能です。
しかし、住宅などの財産を持っている場合、つまり「管財事件」の場合では予納金は債務総額により異なってはきますが、債務総額が5,000万円未満の場合、東京地裁では50万円の予納金が必要になります。
また、少額管財事件という予納金が20万円でできる破産手続もありますが、これは弁護士を雇っていることが前提になります。また、すべての地方裁判所で少額管財事件を取り扱っているわけでもありません。
予納金が20万円であっても、弁護士報酬が別途10万円~30万円程度かかるわけですから、支払い総額は管財事件と代わりありません。
自己破産前に任意売却をすると引っ越し代がもらえる可能性もある
自己破産をする前に任意売却をすると、引っ越し費用を出してもらえる可能性があります。自己破産をすれば、どちらにせよ住宅という財産を失ってしまうのですから引っ越しをしなければなりません。
しかし、自己破産の申立てをしてしまうと、住宅は自己破産を申立てた債務者ではなく、裁判所が選任した破産管財人の管理下に置かれ、自由に処分することができなくなります。つまり、自己破産をすると任意売却をする権利が無くなってしまいます。
任意売却をせずに自己破産をすると銀行は抵当権という権利を使い、破産管財人を売主として任意売却をおこなったり、競売をおこなったりして、残債務を回収します。
また、自己破産後に競売となった場合でも引っ越し代はでません。さらに、期日までに強制的に退去して住宅を引き渡さなければなりません。
出て行かなければ強制執行にて追い出されてしまい、得をすることは何1つないのです。
任意売却をすると自己破産ができなくなるのでは?
まず、免責不許可事由であると判断されますと、免責不許可になります。免責不許可では、自己破産は完了とはなりません。つまり、破産者のままです。
このような行為は債権者の利益を減少させますので詐害行為として禁止されるわけです。
偏頗弁済は特定の債権者以外には不利益になり、債権者間で不公平が起きるという理由から免責不許可事由になるのです。
自己破産前の任意売却は「抵当権」のせいで詐害行為・偏頗弁済にはあたらない
住宅ローンが残っている住宅には、抵当権というものが設定されています。
また、自己破産前に債権者の合意・許可を得てから任意売却をするのは、債権者への借金の返済のための住宅売却行為であり、売却した代金は全額債権者側へ配当されます。そのため、債権者の利益を阻害する詐害行為にも任意売却は当たらないのです。
これは、裁判所が判断を下していますので、自己破産前に任意売却をしても免責不許可にはならないので安心してください。
まとめ
住宅ローン以外にも莫大な借金がある多重債務状態では、債務整理の最終手段である自己破産はおすすめの方法です。
また、多重債務状態で自己破産をするしかない場合でも、任意売却をして住宅を処分してから自己破産をすることにより、同時廃止事件という安くて早く自己破産が完了する自己破産の手続きをとることができます。