任意売却は、大きなくくりで言えば債務整理の1つの手段です。そのため、任意売却は弁護士へ相談するものと考えてしまいがちですが、弁護士は法律のプロであっても不動産売買のプロではありません。今回は、任意売却は弁護士へ依頼すべきなのかについて紹介をしていきます。
目次
任意売却は弁護士法に違反する?
債務整理と任意売却
任意売却は大きな視点で見れば債務整理の1つです。不動産を売却して、その代金で住宅ローンの残債務を返済するのですから、債務整理です。この点から、弁護士が任意売却をしなければ弁護士法に違反すると考えてしまったようです。
確かに任意売却は結果として、債務整理をしてしまうのですが、任意売却という行為自体はただの物件の売却行為です。
そして、弁護士法にいう非弁護行為というのは、法律事務すべてにあてはまるものではありません。
弁護士方法の法律事務というのは、法律事件事務に限られているとしています。では、任意売却が法律事件事務になるのかといえば、答えは「NO」です。
任意売却は弁護士に相談すべきでしょうか?
任意売却は弁護士に依頼をするべきなのでしょうか? 確かに、よくわからない任意売却の専門業者よりも、安心して依頼をすることができるのですが、いくつか問題があります。
- 任意売却を好まない弁護士
- 弁護士は不動産の専門家ではない
- 費用が相当かかる
- 競売の取下げをしてくれないこともある
このあたりでしょうか。
任意売却を好まない弁護士
任意売却は、弁護士が必ずしも必要ではありません。前述しましたが、ただの不動産売買行為であり、弁護士を雇うメリットが無いのです。
そのため、弁護士の中には弁護士が専門的に扱える領分で最善の方法を提案してきます。それが、個人再生や自己破産です。つまり、必ずしも任意売却に対して積極的ではありません。
任意売却の実績をいくつか持っている弁護士でない限り、90%近くの弁護士が自己破産を勧めてきます。
しかし、個人再生も自己破産も連帯保証人に必ず迷惑がかかり、同時に自己破産をすることになってしまいますし、5年~10年間はローンを組んだり、クレジットカードを作ったりすることができなくなるデメリットもあります。また、自己破産自体望まない方もいますし、自己破産をする必要がないと判断されるケースもあるわけです。
弁護士は不動産の専門家ではない
弁護士は不動産の専門家ではありません。あくまでも法律の専門家です。
そのため、住宅の査定や販売活動などをすることはできません。また、任意売却の専門チームを持っている弁護士事務所ならばいいのですが、任意売却の専門チームを持っている法律相談事務所の方が少ないのが現状です。
任意売却の依頼を受けて、提携している任意売却の専門業者へ丸投げをするという弁護士事務所もあります。この場合、弁護士事務所へ支払う費用が余計に掛かってしまうので、ムダが多くなってしまうでしょう。
費用が相当かかる
弁護士費用というのは高額です。
もちろん、弁護士費用が支払えるような仕組みはありますが、それでも着手金は20万円~30万円程度の価格はします。この着手金というのは、任意売却や自己破産に失敗しても減額されたり返還されたりしない、純粋な弁護士の取り分になります。
競売の取下げをしてくれないこともある
弁護士は法律が専門分野であり、任意売却は専門外です。そのため、弁護士としては競売で売却されようが任意売却をしようが、どちらでもいいのです。持ち家という財産を処分することができれば、その後の自己破産の手続きが楽になります。
もちろん、自社に任意売却の専門のチームがある法律相談事務所ならば競売の取下げをおこない、任意売却の売却活動をしてくれますが、任意売却の専門業者よりは熱心に行なわないのが実情です。
弁護士に依頼するとメリットがある場合
弁護士よりも任意売却の専門業者へ依頼をする方がメリットはあると紹介してきましたが、ここでは、弁護士に依頼をするとメリットがある場合を紹介していきましょう。
- 住宅ローン以外の債務も整理したい
- 個人再生を考えている場合
- 自己破産を考えている場合
このようなケースがあります。
住宅ローン以外の債務も整理したい
住宅ローンの滞納から任意売却を考える場合のみならず、その他の借金がある場合です。たとえば、消費者金融業者から借入がある、多重債務の場合などがこれにあたります。
個人再生を考えている場合
個人再生というのは、裁判所へ再生計画を提出して、住宅ローン以外の借金を下記の図のように圧縮する債務整理の方法です。
住宅ローン以外の借金総額 | 最低返済額 |
100万円未満 | 全額返済 |
100万円以上500万円未満 | 100万円の返済 |
500万円以上1500万円未満 | 5分の1の返済 |
1500万円以上3000万円未満 | 300万円の返済 |
3000万円以上5000万円未満 | 10分の1の返済 |
5000万円以上 | 個人再生不可 |
借金が5,000万円未満であれば利用することができるもので、住宅ローン以外の借金の減額ができますので、住宅ローンを残しつつ、他の借金を減額したいと考える場合には理想的な債務整理の方法です。
手続が非常に複雑であり、期間内に手続を済ませないと効力を発揮しないという個人ではおそらく実行不可能なものであり、専門家である弁護士に依頼するのが一番正しい方法であると考えます。
もちろん、住宅を処分してしまいたいという人には不向きですが、住宅を残して住み続けたいという人にとってはメリットのある方法です。
自己破産を考えているケース
住宅ローンとその他の多重債務のせいで、「収入<返済」という状態になってしまっているのであれば、自己破産などの債務整理を前提にすれば弁護士への相談はメリットがあります。
任意売却も自己破産の1つの手続きとしておこなってくれます。持ち家がある場合、財産を持っているとして、破産管財事件になってしまい時間と労力が余計にかかってしまうので、財産である持ち家を任意売却して処分をし、自己破産をします。
仮に持ち家を持っていて自己破産をしてしまうと、破産管財人という弁護士が選任されます。破産管財人は裁判所が依頼人になり、住宅ローンがある場合、債権者は別除権を行使して住宅の任意売却をおこないます。
そのため、少しでも多くの引っ越し費用を手元に残したり有利な任意売却をしてくれたりは、期待することはできません。
また、闇金で借金をしている場合でも、その対処方法に慣れた弁護士へ依頼をすることで、解決の道をしめしてくれます。
消費者金融から借金をしている場合、連日督促などがありますが、弁護士へ依頼をすることで受任通知というものを送付し、受任通知を受け取った債権者は督促や差押えをすることができなくなります。そのため、精神的に追い詰められている場合などにはメリットになるといえます。
このような特殊なケースは、任意売却の専門業者ではとても対応することができませんので、プロである法律事件事務所へ依頼をしてしまった方がいいでしょう。
任意売却をするときの弁護士費用
弁護士を利用しないで任意売却をするときにかかる費用についてですが、これは一切、費用がかかりません。任意売却の専門業者へ支払う費用については、売却された住宅の売却代金から控除されます。
では、弁護士を利用した場合はどうなるのかといいますと、自己破産や個人再生の手続きの別の業務として、弁護士費用が別途発生する料金体系をとる弁護士事務所が多くあります。また、弁護士費用については、住宅の売却代金からは控除されません。
任意売却をするとき弁護士に依頼をするべきなのか?
しかし、離婚や遺産相続などの家庭問題が関係してくる法律問題や、高齢者・障害者の成年後見などの、法律問題が関連してきた場合は弁護士事務所へ依頼をした方がいいでしょう。
ただし、その分の高額な弁護士費用がかかることを忘れてはいけません。任意売却をした上で自己破産をするのであれば、借金のほとんどが免責されます。しかし、自己破産をしないのであれば、任意売却後に残債務の他に弁護士費用も払い続ける必要が出てきます。
つまり、残債務の返済の他に、弁護士費用の返済が待っているというわけです。そのため、法律問題に発展しそうなときに限り、弁護士に依頼をして任意売却をするよりも任意売却の専門業者へ依頼をしてしまった方が安上がりで済みます。
まとめ
任意売却は債務整理の1つの手段ではありますが、弁護士へ依頼を必要は必ずしもありません。
なぜなら、弁護士は法律の専門家ではありますが、不動産売買の専門家ではありません。そして、任意売却は債務整理の1つの手段であり、債権者との合意が必要とはなりますが、あくまでもただの不動産売買になりますので、弁護士へ依頼し仲介をしてもらう必要というのはありません。
- 任意売却を好まない弁護士
- 弁護士は不動産の専門家ではない
- 費用が相当かかる
- 競売の取下げをしてくれないこともある
このようなものがあります。
- 住宅ローン以外の債務も整理したい
- 個人再生を考えている場合
- 自己破産を考えている場合
このようなことがあります。
つまり、弁護士へ任意売却を依頼するときというのは、任意売却をしたあとに自己破産を考えている、もしくは任意売却をしたくないから個人再生を考えている方が利用するのがもっともおすすめの方法であるといえます。
しかしながら、弁護士費用については、任意売却の専門業者とは異なり、全額自己負担となります。控除の対象にはなりませんので、安く任意売却を済ませたいと考えるのであれば、利用するべきではありません。任意売却以外にも法的なサポートが必要なときのみに、弁護士の利用を検討してみてはいかがでしょうか。