任意売却後に気になるのが、残ってしまう借金です。よくある誤解として、任意売却をすれば借金が0円になるということです。任意売却をしても残債の支払は免除されません。住宅の売却価格よりも住宅ローンの残債務の方が多ければ、当然ですが債務は残ります。これが残債です。
稀に交渉によって残債が免除になるという風聞を耳にしますが、実際問題、債権者が何の見返りもなく残債を免除してくれることはありません。
今回は残債を整理する方法を紹介していきます。
目次
任意売却をしても残債は免除されない
任意売却後の残債ですが、すでに住宅の抵当権も外れています、というかすでに売却されて他人の所有物になっていますので、無担保債権になります。この残債は銀行や保証会社から債権回収業者に売却されます。
そして、一般的には、このような債権は不良債権としてサービサー(債権回収会社)と呼ばれる債権回収業者に売却されます。住宅金融支援機構のなどは例外ですが、民間の金融機関は、サービサーに売却します。
そして、任意売却後の残債務はサービサーのような債権回収業者への支払義務が残ります。
ネットなどでは交渉次第では住宅ローン売却後の債務は免除されるなどとありますが、全額免除されることはまずありませんので、誤解しないようにしてください。
サービサーとは?
サービサーとの交渉により残債が減額される可能性もある
サービサーは保証会社から、債権額元本よりもはるかに安い価格で債権を買い取っています。そのため、残債を全額返済してもらわなくても利益がでる計算となります。
また、そもそも回収の確率の低い無担保の不良債権ですから、返済額について過度な期待をしてはいません。
しかし、サービサーも建前上は債権の全額回収を目標にしていますので、まったく返済をしていない時点でサービサーに、「数パーセンの価格で買い戻したい」、「値引きをしてほしい」といっても相手にされない可能性が高くなります。
住宅ローンの基本的な仕組み
借りた住宅ローンの窓口は、ほとんどの場合、銀行であると思います。その銀行は主に系列の保証会社とローン破たんの場合の保証を契約しています。そのため、約2.0%前後の「保証料」が住宅ローンの中に組み込まれています。
住宅ローン破たんをすると、銀行は保証会社から残債の支払を受けることができます。そのため、損失はゼロ円です。そして、保証会社は、それまでの保証料と、サービサーへ売却して採算をとるか、仮に損失が出た場合は保険等で穴埋めをして損失を出さない仕組みとなっています。
このように住宅ローンは、債務者以外は損をしない仕組みができているのです。そのため、ローンを払えなくなり、銀行などに迷惑をかけてしまったと悩む必要性はありません。
債権を持つ会社にとって、住宅ローンはビジネスです。ギャンブルではありません。債権者側がビジネスなのですから、債務者も同様にビジネス的な割り切った考え方でいいでしょう。
残債を整理する方法
任意売却の後が弁護士の領分であり、任意売却の前は任意売却の専門業者、つまり、不動産業者の領分になります。
収入があり意地でも住宅を任意売却したくない場合には、弁護士が活躍します。なぜなら、「任意整理」「民事再生(個人再生)」といった債務整理も弁護士の領分だからです。
話を戻します。
残債の整理方法ですが、下記の5つの方法があります。
- 自己破産
- 任意整理
- 民事再生(個人再生)
- サービサーを利用した債務整理
- 時効を利用しての債務整理
この中で、避けるべき方法としては「時効を利用しての債務整理」です。それ以外の方法はそれなりの効果があります。
1.自己破産
自己破産は裁判所に申立てることでおこなうことのできる債務整理の方法です。
住宅という不動産、つまり財産はすでに任意売却にて処分されています。そのため、裁判所へ納める予納金が少なく、破産者としての期間が短い自己破産の手続きである「同時廃止事件」を利用することができます。
同時廃止事件ならば、すべての手続きが終了するまでに約3ヶ月~6ヶ月程度必要になります。
自己破産は債務整理の中でもっとも効果が強く、非免責債権、つまり税金などを除きすべての借金が帳消しになります。もちろん、住宅ローンの残債も0円になります。
ただし、自己破産を利用する場合、20万円以上の財産があると「管財事件」もしくは「少額管財事件」となります。
この場合、20万円以上の財産は換価処分の対象となるのです。たとえば、20万円以上の価値のある自動車、解約返戻金が20万円以上ある保険、20万円以上の預貯金はすべて没収されてしまいます。また、99万円以上の現金がある場合も管財事件、少額管財事件になり99万円以上を超える現金は没収されてしまいます。
不動産のような処分に時間がかかる財産がない場合、4ヶ月~6ヶ月程度で終了します。
2.任意整理
任意整理は、債権者と交渉をすることで将来利息をカットすることができます。そして、借金の返済期間を3年間リスケジューリングをして、分割払いをしていきます。
借金の総額が100万円~200万円程度の場合、任意整理をしてしまった方がいいでしょう。
裁判所を利用しない私的な和解交渉であり、官報などに名前が載りません。任意整理のひとつの方法として任意売却は存在しています。
原則として、債権者と話し合うのは弁護士です。司法書士も任意整理の交渉をすることができるのですが借金の総額が140万円以上の場合、司法書士はその案件の交渉をすることができません。任意売却の場合140万円以上の残債が予想されますので司法書士では取り扱うことはできないでしょう。
この方法を利用しても、借金の元本を減額することはできず、あくまでも利息のカットがメインとなります。利息がカットされますので返済をすればするほど、残債は減額されます。
3.民事再生(個人再生)
自己破産より効果が弱く、任意整理よりも効果が強い債務整理の方法であるといえるでしょう。
自己破産のように借金が全額免除になるわけではなく、3年、最長で5年間をかけて残債を返済していきます。
裁判所に収める費用は60万円前後です。こちらも弁護士を雇うことで個人再生委員という弁護士を選任される可能性が低くなり、結果として裁判所に収める予納金の額を減額させることができます。
司法書士に依頼することもできますが、司法書士は代理権を行使することができない案件になります。また、個人再生委員が選任される可能性が弁護士に依頼をするより高くなり、金額面でのメリットがなくなります。
自己破産のように、手続き中は破産者になるようなデメリットもありません。
弁護士費用は、自己破産と任意整理よりも高額ですが、分割払いを認めている法律事務所が多くなりますので、弁護士費用はそこまで問題とはならないでしょう。
4.サービサーを利用した債務整理
サービサーは、信用保証会社から売却された無担保の不良債権、通称「くず債権」「ポンカス債権」などと呼ばれる債権を非常に安く購入します。たとえば、1000万円のいわゆるくず債権の場合、10万円~100万円でサービサーに売却されます。
他にも1000万円の残債がありますが、一括で150万円を返済してくれたらとなった場合、頭金の100万円を支払、50万円を3年間、毎月14,000円の支払で完済するという解決方法もあります。
どちらにせよ、交渉は代理権を持つ弁護士がおこなうか債務者自身がおこなわなければなりません。
債権者との取引という感覚で挑んだ方がいいでしょう。
ただし、どんなに粘っても交渉によって残債を支払わずに0円にすることはできません。
住宅金融支援機構の場合は支払える範囲内で、毎月返済をするという方法が一般的です。
5.時効を利用しての債務整理
民法では、権利の上に眠るものを保護しないとされています。残債があるからといって、なにもしない場合は、その権利は消滅するのです。
ただ、債権回収のプロが時効になることを知らず、そのまま債権を放置するかと疑問に思うかもしれませんが、法務省の平成23年6月発表のデータでは、サービサーの累計取り扱い債権数は1億381万円であり、累計取り扱い債権額は、320兆円となっています。つまり、1件当たりの債権額は約300万円です。
債権回収担当者1人が担当する債権額は、相当の件数を担当していることが予想できるわけです。
債権回収担当者のノルマはあると考えられます。また、なかったとしても成績やボーナスなどに影響を及ぼす可能性は十分にあります。担当者としては効率よく回収するためには優良債権、つまり高額で債権回収しやすいものを優先的に回収することに力をいれます。手間がかかり、時間がかかる債権は後回しになります。
時効が成立したのかを調べるためには、素人判断は避けて、弁護士などの専門家を利用して確認をすることがいいでしょう。
時効の期間が過ぎても、時効により利益を受ける意思表示である「時効の援用(民法145条)」が必要になります。
時効の援用をしなければ、債権は消滅しません。
時効の援用をしない限り、債権者の支払催告はやみません。
時効の援用ですが、時効をしている旨を、郵便局より内容証明郵便で相手債権者に郵送するだけです。
また、訴訟を提起されてしまった場合、時効を利用することはできなくなります。
まとめ
任意売却をしても、債務が残ってしまうケースがあります。この債権は返済をしなければなりません。
残債の整理については、弁護士の領分となりますので、弁護士と相談をしながら実践をすることをおすすめします。
- 自己破産
- 任意整理
- 民事再生(個人再生)
- サービサーを利用した債務整理
- 時効を利用しての債務整理
これらがあります。
このなかで、サービサーを利用した債務整理がリスクなく行える、現実的な方法でしょう。
そして、もっとも利用すべきではないのが、時効の利用です。
効果よりもリスクの方が大きくなります。