離婚と住宅ローンは、切っても切り離すことのできない問題ではないでしょうか。厚生労働省の平成21年度調査では、別居を始める男女の年齢はともに、30歳~40歳が最も多くなります。特に30代前半の夫婦が住宅を所有しているのであれば、住宅ローン支払中というのが多くなるでしょう。
では、離婚した後、住宅ローンの残債の支払いは誰がするのかをしっかりと確認しておく必要があります。また、離婚をする前に連帯債務で住宅ローンを借りた場合の任意売却はどのようになるのでしょうか。
目次
離婚後に住宅ローンの連帯債務を外すことは可能か?
住宅を購入するときに、収入を夫婦合算して連帯債務で住宅ローンを銀行から融資してもらった場合、離婚後に連帯債務はどのようになるのでしょうか。
離婚後は多くの場合、別居をすることになりますから、住宅の扱いについても下記のパターンが考えられます。
- 夫が住宅に住み続ける。妻子は住宅を出て行く
- 妻子が住宅に住み続ける。夫が住宅を出て行く
- 夫婦ともに住宅を出ていき、住宅を任意売却にかける
この3つのパターンが一般的です。
夫が住宅に住み続ける。妻子は住宅を出て行く
夫が住宅に住み続ける。妻子は住宅を出て行くという場合、夫婦間の協議として、一般的には「共有名義の住宅を夫に譲り、その代わりに住宅ローンをすべて夫が負担し、妻は負担しない」という方向で落ち着くケースが多くなります。
しかし、連帯債務を外すためには住宅ローンを融資してくれた金融機関の許可が必要になります。
元妻が連帯債務者から外れるためには?
銀行や住宅金融支援機構などの債権者は、夫婦2人の収入を合算して返済をしていくことを、そもそもの条件として住宅ローンを融資しています。
そして、金融機関などの債権者の立場からすれば、「私離婚しました」と言われても、それは家庭の問題であり、「貸したお金はしっかり返してください」という話になります。
そのため、連帯債務や片方のペアローンを解除するためには金融機関が損をしないような具体的な提案が必要です。
- 住宅ローンの残債を一括で返済する
- 代わりになる連帯債務者(保証人)を用意する
- 夫の単独名義で住宅ローンを借り換える
住宅ローンの残債を一括で返済する
代わりになる連帯債務者(保証人)を用意する
そのため、元夫の父親などに連帯債務者を引き受けてもらう場合、父親からの許可は得たものの、金銭的、年齢的な属性を満たしていないので、金融機関が許可しないというケースがよくあります。連帯債務者は、住宅ローンの残高にもよりますが、数十年と返済を継続しなければなりません。それゆえ、定年が近い年齢の場合では審査が下りないケースも当然ですがあります。
夫の単独名義で住宅ローン
そして、夫の単独名義の住宅ローンにする方法としては下記の2つのパターンがあります。
- 同じ金融機関で住宅ローンの条件を変更する
- ほかの金融機関で住宅ローンを借り換える
仮に同一の金融機関内で借り換えを認めてしまうと、金利が低いときに借り換えの交渉をされてしまい、住宅ローンという商品が成立しなくなります。同じ金融機関でもローン名義を連帯債務から単独債務に変更することは可能です。これが変更になります。
別の金融機関で住宅ローンを借り換える場合でも、別の金融機関へ支払う手数料や保証料・登録免許税・抵当権の設定費用・司法書士報酬など、住宅ローンを最初に組んだときと同じ数十万~百万円程度の諸経費が発生することになります。
また、住宅ローンを元夫の単独名義に変更をする場合には、「贈与税」の問題が発生します。
贈与税の問題について、なぜ発生するのか?
住宅ローンの契約を、離婚後に元夫名義に変更するにあたり、住宅の所有名義も元夫単独所有に変更しなければなりません。なぜなら、抵当権の問題があるからです。
元夫が、将来的に住宅ローンの返済を長期にわたって滞納した場合、金融機関は抵当権を行使して、住宅を強制的に競売にかけて住宅ローンの残額を回収します。このとき、住宅のすべてに抵当権が及んでいなければ金融機関としては困ったことになります。
そのため、元妻が連帯債務や連帯保証から外れたいのであれば、元妻は共有持ち分を放棄した後、夫に譲渡しなければなりません。これは不動産を譲渡することになりますので、譲渡税や贈与税が発生する可能性があります。
妻子が住宅に住み続ける。夫が住宅を出て行く
離婚協議をおこない、妻子が住宅に住み続けることになるパターンも多くあります。
- 妻が以降の住宅ローンをすべて1人で返済していく
- 元夫に今後も住宅ローンを支払ってもらう
という2つのケースに分かれます。
妻が以降の住宅ローンをすべて1人で返済していく
妻が以降の住宅ローンをすべて1人で返済していく、というケースについては原則として「夫が住宅に住み続ける。妻子は住宅を出て行く」と同じです。
ただ、元妻が住宅ローンを支払う場合は、相手へ要求するポイントが異なります。
連帯債務の住宅ローンで、所有名義を妻だけにできるのか?
連帯債務で住宅を購入した場合、住宅の名義も共有名義(共有持分)になります。
離婚後に、住宅から出て行った元夫が住宅の所有権を半分所有していると、たとえば、元夫が住宅を売却したり勝手に担保に入れてしまったり、自己破産などをすれば共有持分は競売にかけられてしまう可能性があるのです。
そこで、妻は離婚協議の条件として次のことを提案したとします。つまり、「住宅の所有を単独名義にしたい」という提案です。
住宅の所有名義を元妻の単独に変更することは可能なのか?
もし、この条項に違反して、債権者の同意を得ることなく住宅を第三者へ譲渡したり、名義を変更したりした場合には、住宅ローンの残額の一括返済を請求される可能性もあります。当然、一括返済をすることができなければ強制競売になる可能性もあるわけです。
元夫婦間の共有名義であったとしても、住宅ローンを融資している債権者に相談することなく勝手に名義変更や、夫婦間での共有譲渡することはよからぬ結果を招くことになります。
実際問題、名義変更は許可してくれる?
それでは、実際問題、名義変更を許可してくれるのかといえば、これは非常に難しいことであるといえます。連帯債務で住宅ローンを借りている以上、共有名義の解消を認めてもらえるのは、極めて低いでしょう。
住宅ローンを妻の単独名義に変更(借り換え)する」のならば、住宅の所有名義も妻の単独になります。
元夫に今後も住宅ローンを支払ってもらう
たとえばですが、離婚協議書で強制執行できるようにしておく方法です。もし、元夫が約束した住宅ローンの支払い義務を果たさなかった場合、元妻が立て替えで銀行に返済した分を元夫の給与や預貯金口座から強制執行により差押えで回収できるようにしておく、という方法もあります。
民事執行法第22条1項5号
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
また、連帯債務者の負担割合を50%ずつであるにも関わらず、今後の住宅ローンすべて夫が支払う、住宅ローンの7~8割を夫が多めに支払うという約束の場合、贈与税の問題が発生する可能性があります。
夫婦ともに住宅を出ていき、住宅を任意売却にかける
住宅がまだローン返済中の場合、任意売却をして住宅を処分するという方法もあります。夫婦双方が住宅を出ていき、任意売却してしまった方が、前述のような煩わしい手続きなどをとる必要はありません。
そして、離婚を機に住宅を売却するとなるときは、オーバーローン状態であるのが一般的です。つまり、住宅の売却価格<住宅ローンの残債務という状態がオーバーローン状態です。
そのため、金融機関などの債権者の許可を得ずに住宅を売却することはできません。このような交渉は任意売却を専門とする不動産業者に依頼をしてしまった方がスムーズに話が進みます。
住宅を売却しても住宅ローン残債務は残りますので、住宅ローンの残債務は負の遺産ですから、財産分与をおこない、残った額を夫婦それぞれが返済をしていくことになります。
住宅という不動産はなくなりますが、任意売却をすることが離婚と住宅ローン問題の解決には非常に効率のいいものとなります。
まとめ
離婚後は多くの場合、別居をすることになりますから、住宅の扱いについても下記の3パターンが考えられます。
- 夫が住宅に住み続ける。妻子は住宅を出て行く
- 妻子が住宅に住み続ける。夫が住宅を出て行く
- 夫婦ともに住宅を出ていき、住宅を任意売却にかける
夫が住宅に住み続ける場合の問題点としては、元妻を連帯債務者や保証人からいかにして外すかです。これは非常に厄介な問題です。銀行や金融機関はなかなか認めてくれない可能性があります。また、贈与税や譲渡税などが発生する可能性があります。
逆に妻子が住宅に住み続ける。夫が住宅を出て行く場合、名義変更など消費貸借契約書に定められているので、これを無視しておこなうとなんらかのペナルティーを受けることになるでしょう。また、これも銀行や金融機関は認めにくくなります。また、贈与税や譲渡税などが発生する可能性があります。
現実的で実行しやすい方法としては、住宅に住み続ける選択肢を捨てて自宅を任意売却する方法です。任意売却をすることで、残債務は残りますが複雑な手続きなどを必要とせずに、また元夫や元妻に振り回される生活から抜け出すことができるでしょう。