というわけで、今回は任意売却と競売について紹介をしていきます。
目次
競売と任意売却
競売とは?
住宅ローンを滞納し、返済する見込みがない場合、住宅ローンを融資した債権者は地方裁判所に不動産差押えを申立てをします。
この不動産差押の申立てを裁判所が受理した後、住宅の所有者である債務者へ裁判所から「特別送達」という特別な送達方法で「不動産競売開始決定」という通知が届きます。
債権者は、債務者の所有する住宅に抵当権などの担保権をかけており、借金の返済が見込めない場合、住宅を換金して借金を減らすことができるのです。
この後、競売は自動的に進行していき、債務者がなにもしないのであれば期間入札を経て、一番、高額な価格で入札した人へ住宅を売却してしまいます。
競売の件数
競売の件数をまとめた資料があります。
任意売却とは?
住宅ローンの返済ができない場合、債務者が任意売却業者や不動産業者の仲介のもと、住宅を売り、売却代金で住宅ローンの返済をおこないます。
- 住宅ローン>売却金額(オーバーローン)
- 住宅ローン<売却金額(アンダーローン)
アンダーローンの場合は普通の不動産売却と同じような流れで売却することが可能です。
また、任意売却の手続きは、競売の手続きと同時に進められていますので、もし、競売の方で開札(入札が締め切られ落札者がわかること)をされてしまったら、任意売却をすることはできません。強制的に競売の落札価格で売却されてしまいます。
任意売却には制限時間があり、開札ギリギリになって手続きを始めてしまうと、失敗する可能性があります。
任意売却と競売の違いはどこにあるのか
任意売却と競売の違いは、
競売 | 比較 | 任意売却 |
市場価格の7割前後 | 売却価格 | 市場価格に近く売却が可能 |
官報や新聞紙、インターネットなどに競売の事実が掲載される | プライバシー | 通常の不動産売買と同様心配なし |
裁判所(国家権力)が介入してくる | 裁判所の介入 | 裁判所の介入はない |
引っ越し代は出ない | 引っ越費用 | 交渉により可能性あり |
任意売却より多くなる | 残債務額 | 競売より少なくなる |
裁判所命令によって追い出される | 退去日の決定 | 交渉により可能性あり決めることができる |
強制執行により追い出される | 住み続けることは可能か? | 不動産リースバックなどを利用すれば可能 |
非常に高い | 精神的ストレス | 自らの意志で決定したのでそこまではストレスはたまらない |
引っ越し費用等 | 費用 | かからない |
難しい | 残債の交渉 | 交渉の余地あり。交渉しだいでは安く返済も可能 |
6ヶ月~8ヶ月 | 期間 | 競売より短い |
債務として残る | 滞納した税金 | 任意売却時に控除 |
これらが挙げることができます。
ただ、個人的には任意売却と競売の違いは、「自分の意志の有無」だと考えます。また、「主導権の有無」も任意売却と競売の違いであると考えます。
自ら住宅ローンを返済するために任意売却を選択した方が、競売により住宅を売られてしまったときよりも、前向きな気持ちで人生のリスタートを切ることができるはずです。受け身で全部命令されるがまま、従うというのは、自宅を売る際には非常にストレスになるのではないのでしょうか。
売却価格について
競売の場合
競売の場合、特別なケースを除き、売却基準価格ではなく、買受可能価格以上の金額であれば入札に参加することができます。
そして、買受可能金額というのは、基本的に売却基準価格の8割程度の金額であり、この金額以上であれば、入札参加が可能となります。
結果として、競売で入札・落札された価格というのは、一般市場で販売したときの相場より約60~70%程度の価格で落札されることになります。
なお、入札者が誰もいない場合、今度は「特別売却」という方法で売却されます。これは、買受可能金額より高い金額を出すことができれば、早いもの勝ちで住宅を売ってしまうというものです。
特別売却はオークション形式ではありませんので、そこまで高価買取は期待できません。
売却基準価格の平均と落札価格の平均は下記のようになっています。
任意売却
任意売却は、早く売却する必要があり、なおかつ売主(債務者)に有利な条件の契約となってしまうので、一般市場価格より少し安い売却価格となってしまいます。
プライバシーについて
競売
競売の場合、裁判所が関係してきますので、競売をする旨を国が毎日発行する「官報」というものに掲載をします。また、広く入札者を集めるために、新聞に広告を出すこともあります。
- 現状調査報告書
- 評価書
- 物件明細書
この3点セットが置かれています。
また、ネットの「不動産競売物件情報サイト(BIT)」にて、全国から競売物件の情報を閲覧することができます。
官報をはじめ情報は、無料で集めることができますので、競売専門の不動産業者が自宅の近くをうろついたり、闇金業者をはじめとした怪しげな団体からのダイレクトメールに電話、さらには、実際に訪問をされたりします。新興宗教から怪しげなコンサルタント業者まで幅広くやってくることでしょう。
これらのことから、競売をするとプライバシー面で大きな不利益をこうむります。
任意売却
一般の不動産売買と同じであり、官報などにも名前が載ることはありません。
そのため、任意売却に成功した後も怪しげな業者に振り回される心配はありません。近隣住民も普通に住宅を売って引っ越したとしか考えないでしょう。
裁判所の介入
競売
裁判所が主導して、裁判所の基準にて競売をおこないます。
そのため、官報に名前などが載ったり、競売に反対をしたとしても、強制執行にて排除されます。
任意売却
裁判所は動きません。
引っ越し費用
競売
一切出ません。以前はゴネればいくらか出たようですが、現在は強制執行により排除されます。
任意売却
任意売却をおこない、思った以上に売却代金が高い場合、交渉をすることで引っ越し費用を控除してくれることがあります。
ただし、住宅金融支援機構から融資をしてもらっている場合、引っ越し費用は特別な場合を除き一切出ません。
残債務額
競売
残債務額、つまり、未払いの住宅ローンの額ですが、競売で住宅を売却した場合、市場価格の60~70%での販売となります。
任意売却
比較的、市場価格に近い価格で住宅を売却することが可能なので、残債務額の圧縮は期待することができます。
退去日の決定
競売
競売は、落札者が通知された期限までに代金納付を完了させることにより、裁判所が住宅の所有権の登記を、債務者から落札者へ書きかけます。
つまり、この時点で、住宅はすでに落札者のものとなります。その後、裁判所が引渡し日を命令しますので、その日までに債務者は出ていかなければなりません。
任意売却
任意売却は、一般の不動産売買と代わりがありませんので、退去日は購入した買主と交渉することにより決めることができます。
強制執行などで強制的に追い出されるということはありません。
住み続けることは可能か?
競売
不可能です。
任意売却
たとえば、親族や知人などが任意売却により住宅を購入した場合、交渉により、不動産リースバックという制度を利用して住み続けることが可能です。
業者や投資家なども不動産リースバックをおこなっていますが、基本はアンダーローンのみ対応です。しかし、交渉次第ではアンダーローンでも不動産リースバックを利用することができます。
精神的ストレス
競売
一般的に、競売の方が精神的ストレスはかかるとされています。その理由としては、官報をはじめとした様々な媒体に名前や住所、電話番号などが記載されますので、複数の怪しげな業者に付きまとわれます。
任意売却
任意売却の場合、官報などに名前が出るわけでもなければ、怪しげな業者に付きまとわれることもありません。それだけでも、競売で売却するより精神的には楽といえます。
また、自分の意志で決定し、住宅を手放したというのは、前向きな気持ちとなり得る理由といえるでしょう。
費用
競売
費用については、引っ越し費用等の費用が確実に発生します。
任意売却
すべて、任意売却をした住宅の売却代金から控除されますので、業者に払う手数料などなどは一切かかりません。
また、複数の債権者から住宅ローンの融資を受けていた場合は、債権者全員が納得しなければ任意売却をすることができません。しかし、オーバーローンの場合、債権者全員に配当金が分配されるわけではないので、配当金が分配されない債権者には、担保権解除費用(ハンコ代)を支払います。
引っ越し費用なども場合によってはかかりません。滞納している税金なども住宅の売却代金から控除されます。
残債の交渉
競売
競売をして住宅を取り上げられたとしても、住宅ローンの残債(未払い金)は残っています。
ただ、競売で住宅を取り上げられた場合、債権者も損をしているわけです。つまり、任意売却をした方が、残債額は少なくて済むわけですから。そのため、残債の交渉というのは競売にて住宅を失った方は難しいといえます。
まったく行動しなかった結果が、競売なので、その分のツケが回ってきたと考えるしかないでしょう。
任意売却
任意売却の場合、債権者と協力をしながら成功に導きますので、債権者としてもある程度は妥協をしてくれます。
残債の返済先は、金融機関ではなく、金融機関に代位弁済(代わりに返済)をしてくれたローン保証会社、もしくはローン保証会社から委託を受けたサービサー(債権回収会社)です。
交渉は、基本的に穏やかな話し合いなので、恫喝されたり、ひたすら謝ったりする必要というのはありません。ビジネス的に淡々と進められます。
期間
競売
競売のスケジュールは下記のようになります。
滞納を始めて3ヶ月~6ヶ月が経過した時点で、債権者は競売差押えの申立てをおこないます。そして、裁判所が競売開始決定を下し、期間入札を経て開札日までが競売の期間です。
この期間は、約4ヶ月~半年程度の時間がかかります。
競売開始決定時点で任意売却業者や不動産業者へ相談をするというのが一般的ですが、基本的に、この段階で相談をしたとしても買主を見つけるのは難しく競売として売却される可能性が高くなります。
任意売却
任意売却は、理論上、入札最終日、つまり、開札の前日までは競売の申立てを取り下げることができます。
実際問題、開札日の前日に取り下げるのは企業としては難しいので、入札が始まる前には任意売却を成功させておきたいものです。
任意売却は、買主さえ見つかれば終了なので、競売と比べると期間は短くなります。
滞納した税金
競売
固定資産税のような税金を滞納している場合、行政が差押えをすることができます。しかし、競売の場合は税金を滞納していても売却することができます。
そして、残った滞納している税金は債務として、債務者は支払続ける必要があります。
任意売却
税金を滞納していて、差し押さえられていると任意売却をすることができません。そのため、まずは任意売却業者や不動産業者が差押えをしている行政に、任意売却をすることができないので「無益の差押え」を止めてくれと要求します。
また、たとえば、住宅金融支援機構から融資を受けている場合、10万円または固定資産税・都市計画税1年分のいずれか低い方を、売却代金から控除してくれます。そのため、競売とは異なり、税金の一部が控除されるというわけです。
まとめ
任意売却と競売について紹介をしました。
競売は国が主導でおこなう不動産売買であり、任意売却は個人(債務者)が主導しておこなう不動産売買です。
住宅を自分の意志で売るのか、それとも債権者や国の意志で売らせてしまうのか、そして、どちらが自分にとってメリットがあるのかを考えて、任意売却もしくは競売を選びましょう。