連帯債務で住宅ローンを借りている場合、当初は住宅共有名義になっているはずです。しかし、離婚をした場合、単独名義にして住宅ローンに乗り換えた場合、共有名義のまま放置して、実質劇にどちらかが払い続ける場合、このいずれかの場合であっても贈与税が発生します。
今回は、離婚後に任意売却しなかった、連帯債務の住宅にまつわる税金について紹介します。意外と厄介な話であり、細かくわけて説明します。
目次
離婚後の連帯債務の住宅にまつわる税金
連帯債務にて、住宅ローンヲ借りている場合、住宅は共有名義に当初はなっているでしょう。
- 共有名義のまま放置して、実質的にどちらか片方が支払を続ける場合
- 単独名義にして住宅ローンを借り換えた場合
この2つのいずれかになります。
そして、この2つの場合、贈与税が発生する可能性があります。この税金の話は意外と面倒くさいので、2つのパターンそれぞれに分類して説明します。
住宅ローンは連帯債務のまま放置する場合
初めに、住宅ローンについて、離婚後も連帯債務のまま放置する場合から解説します。
これは、「銀行に連帯債務の解消をお願いしたものの応じてもらえなかった場合」もしくは「他の金融機関での借り換えにも失敗した場合」も該当します。
5つのパターンに細かく分けます。
1.共有名義のまま、夫が住み、住宅ローンも夫がすべて支払う
物件の所有名義は共有名義のまま、今後は夫が居住し、住宅ローンも夫がすべて支払う場合です。
この場合、本来、元妻は支払うべき住宅ローンを元夫が支払うということですが、この場合は元夫から元妻への贈与税がかかる可能性があります。
2.共有名義のまま、妻が住み、住宅ローンも妻がすべて支払う
物件の所有名義は共有名義のまま、今後は妻が居住し、住宅ローンも妻がすべて支払う場合です。
この場合、本来、元夫が支払うべき住宅ローンを元妻が支払うということですが、この場合は元妻から元夫への贈与税がかかる可能性があります。
3.共有名義のまま、妻が住み、夫も連帯債務の契約のとおり支払う
物件の所有名義は共有名義のまま、今後は元妻が住宅に住み続けるものの、元夫は連帯債務の契約通りに支払いを続ける場合です。
この場合は、原則として税金は発生しません。
4.共有名義のまま、妻が住み、ローンは夫がすべて支払う
物件の所有名義は共有名義のまま、今後は元妻が居住するも、ローンは元夫が支払うというパターンです。
この場合、本来は元妻が支払うべき住宅ローンを元夫が支払うことになりますので、元夫から元妻に贈与税がかかる可能性があります。
5.妻名義に変更し、財産分与の協議で住宅を妻名義に変更したい
物件の所有名義を妻名義に変更して、住宅ローンは連帯債務のままだが、財産分与の協議などで住宅を妻の名義に変更する。
連帯債務の場合、所有名義の変更については債権者が許可しません。必然的に住宅は共有名義のままになります。
贈与税がかかるケースについて
物件の所有は共有名義ですが、住宅ローンの支払いをどちらかが、代わりに支払った、つまり、肩代わりした形になります。そのため、この住宅ローンの肩代わりにあたる部分が年間110万円を越えた場合、贈与税がかかります。
贈与税の歴年課税
一般の贈与税では、その年の1月1日~12月31日までの贈与額の合計に対して、贈与税が課税されます。しかし110万円までは基礎控除が認められています。そのため、合計額から110万円を控除した金額が課税対象価格になります。
基礎債務後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
例として、元夫が元妻の住宅ローン分を毎月10万円ずつ代わりに返済した場合、課税額は10万円×12ヶ月-110万円=10万円になります。その結果、贈与税は10万円×10%=1万円となります。
月10万円程度の負担であるのならば、贈与税の額はそこまでたいした額になるというケースはほとんどありません。大半のケースは、基礎控除の範囲に収まります。そのため、贈与税のことを理解していなくても連帯債務の住宅ローンを代わりに支払っているケースも多々あります。
注意すべきなのが連年贈与のときです。これは、離婚協議書などであらかじめ、「今後10年にわたって毎年100万円ずつ住宅ローンを支払う(現金を贈与する)」と決めた場合、将来にわたり贈与額が約束されていると連年贈与として課税される可能性があるのです。
書面などで、将来にわたり1000万円(10年間にわたり100万円を肩代わりされるので1000万円)を贈与することが約束されている場合は、1年あたりの贈与額が110万円以下であっても、離婚協議書により約束した年に「1000万円を受け取れる権利」が贈与されたとして、1000万円を対象にした贈与税が発生する可能性があります。
住宅ローンを夫または妻の単独名義に変更した場合
次に、離婚後に債権者が住宅ローンの債務を単独名義に変更してくれた場合、もしくは他の金融機関にて単独名義で借り換えることができたケースについて紹介します。
これは3つのケースに分けることができます。
1.夫名義に変更し、夫が住み、夫が住宅ローンを支払い場合
物件の所有名義を夫名義に変更して、夫が住宅ローンを支払い、夫が居住するケースです。
この場合、物件の名義変更時に妻から夫に贈与税もしくは譲渡税が発生します。
2.妻名義に変更し、妻が住み、妻が住宅ローンを支払い場合
物件の所有名義を妻名義に変更し、妻が住宅ローンを支払い、妻が居住するケースです。
場合は、物件の名義変更時に夫から妻へ贈与税または譲渡税が発生します。
共有名義のまま、住宅ローンの名義のみ妻の単独に変更
物件の所有名義を共有名義のままにして、住宅ローンの名義のみを単独で変更したいケースです。
これは、原則不可能です。すべての持ち分を住宅ローンの担保に入れる、つまり、抵当権を設定する必要があるため、このような変則的な形にすることは不可能です。
この場合、原則として、住宅の共有持分をそのままにしておくことはできないのです。今後、住宅ローンを支払う側が住宅すべての所有権を所得する形になります。
なぜなら、抵当権が家全体にかけることができない場合、スムーズに競売などへかけることができないからです。
たとえばですが、住宅ローンを連帯債務から元妻の単独名義に変更する場合、それに伴い元夫の共有持分を元妻に譲渡しなければなりません。この譲渡に対して、贈与税が発生します。ただし、この場合、妻は夫の共有持分だけでなく、夫の住宅ローンの残債務も一緒に引き継ぐことになります。
このような贈与の形態を、「負担付き贈与」と呼びます。
負担付き贈与について
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。個人から負担付贈与を受けた場合は贈与財産の価額から負担額を控除した価額に課税されることになります。
この場合の課税価格は、贈与された財産が土地や借地権などである場合及び家屋や構築物などである場合には、その贈与の時における通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額によることになっています。
また、贈与された財産が上記の財産以外のものである場合は、その財産の相続税評価額から負担額を控除した価額となります。
なお、負担付贈与があった場合においてその負担額が第三者の利益に帰すときは、第三者は負担額に相当する金額を贈与により取得したことになります。
つまり、一定の債務を負担することを条件にして財産を贈与することであり、元妻の分の住宅ローン残高をすべて元夫が返済することを条件にして、元妻の共有持分の住宅を元夫へ贈与しまので、負担付き贈与となります。
また、負担付き贈与の場合、贈与の不動産の時価から、負担する金額を控除した価格が課税対象となります。計算方法は、前述した「暦年贈与」と同じです。
たとえばですが、元妻の共有持分が50%、連帯債務での住宅ローンの残額が2000万円、住宅の時価が3000万円の場合、元夫は住宅の共有持分の時価は3000万円×2分の1=1500万円です。そして元妻の住宅ローン残債は2000万円×2分の1=1000万円になります。
課税価格は1500万円-1000万円=500万円になります。そして、基礎控除の110万円を引き、390万円が課税の対象になります。
ここで問題になるというか、一般的に前述したようなケースは稀であり、住宅ローンの残債と住宅の時価が逆の場合が普通です。この場合、贈与税はどうなるのでしょうか。
仮に、住宅ローンの残債額3000万円、住宅の時価が2000万円であれば、負担付き贈与による贈与額はマイナスになります。そのため、元夫へ贈与税はかかりません。しかし、素の場合、今度は妻側に益が発生します。そのため、みなし贈与税がかかる可能性があります。
たとえば、元妻の共有持分が50%の場合、元妻は1000万円の共有持分を夫に譲る代わりに1500万円の住宅ローンの支払いが免除されます。つまり、元夫は1000万円の価値のあるものを1500万円で買い取ったことになります。
そのため、元妻はこの取引により500万円の経済的利益を得ることになります。そのため、税務上では、元夫から元妻へ500万円のみなし贈与(債務免除益)と判断されるケースがあります。
元妻に譲渡税が発生する可能性がある
贈与やみなし贈与とはまったく別の話です。共有持分の譲渡により譲渡益が発生する場合、元妻には譲渡税(譲渡所得税・住民税)がかかる可能性があります。
たとえば、住宅ローン残額が3000万円、住宅の時価も3000万円、当初の住宅の取得価格が2000万円、負担割合(共有持分)が夫婦で2分の1ずつのケースです。
この場合、元妻は、元夫に住宅の共有持分(時価1500万円)を譲渡することで、住宅ローンの残額(妻1500万円)の負担を免れます。これは税務上では、時価1500万円の不動産を元夫に1500万円で売却したことになります。
では、住宅の取得価格(妻の負担1000万円)から考えると、500万円の売却益が出たことになります。つまり、500万円には贈与税ではなく「譲渡税」が発生することになります。
離婚時の贈与分与での譲渡では贈与税はかからない
離婚時・離婚前に共有持分を贈与することで、贈与税を軽減するための方法について解説します。
離婚時の財産分与として、住宅の共有持分を譲渡している場合には、これを受け取った側、原則、贈与税は発生しません。財産分与とは、離婚中に夫婦で築いた財産を離婚時に清算し、配分する手続きです。
この離婚による財産分与の場合、税務上の贈与とはみなされません。共有財産の清算にあたり、必要な請求権であると判断されます。
第768条
1.協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2.前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3.前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
離婚して財産を得たときの贈与税
離婚により相手方から財産をもらった場合、通常、贈与税がかかることはありません。これは、相手方から贈与を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたものと考えられるからです。
ただし、次のいずれかに当てはまる場合には贈与税がかかります。
1 分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合
この場合は、その多過ぎる部分に贈与税がかかることになります。
2 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
この場合は、離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかります。
つまり、離婚による財産分与で、元妻もしくは元夫が不動産の共有持分を相手方に譲渡した場合、受け取った側は原則として贈与税は発生しません。
しかし、離婚そのものが雑徭税を免れるためにおこなわれた場合、贈与金額が著しく大きい場合には、例外として贈与税がかかる可能性があります。
また、離婚歴の長い夫婦の場合、離婚前にあらかじめ住宅の共有持分を譲渡する方法もあります。もし結婚生活が20年以上続いているのであれば、婚姻中に不動産の持分を贈与することにより、配偶者控除を受けられる可能性があります。
これらの税務については、やはり素人では非常に難しくなります。実際の住宅ローンの借り換え、名義変更にあたっては、必ず詳細を税務署・税理士に確認しつつ進めていきましょう。
一番簡単なのは、任意売却してしまう
任意売却とは、債権者(銀行・金融機関)の許可を得て売却する手続きです。そのため、債権者が売却を許可してくれれば、住宅ローン残額のほとんどが清算できます。また、連帯債務や連帯保証などの問題からも解消されます。
任意売却などの場合、費用なども掛かりません。場合によっては引越し代などを捻出してもらえる可能性もあります。
まとめ
離婚後、連帯債務の住宅の場合、
- 共有名義のまま放置して、実質的にどちらか片方が支払を続ける場合
- 単独名義にして住宅ローンを借り換えた場合
この2つのいずれかになります。
共有名義のまま放置して、実質的にどちらか片方が支払を続ける場合は、連帯債務の住宅ローンを肩代わりするので贈与になります。
単独名義にして住宅ローンを借り換えた場合の場合、贈与税・譲渡税が発生する可能性があります。
これらの税務については、面倒であり、離婚する場合、感情的な対立を生む可能性があり、これらの煩わしい税務を考えずに済む方法として、任意売却があります。
このあたりの判断は、正直非常に難しいので、専門家や管轄の税務署で確認することで、間違いはおきないでしょう。